「ソフト・サウンド・フロム・ア・ブルー・コルネット」「ソフト&クワイエット」と、これまでに2枚のアルバムをアリエッタ・ディスクからリリースしてきたスウィート・ジャズ・トリオが、こんどは彼らの母国であるスウェーデンに古くから伝わる民謡や、スウェーデンのソング・ライターによって書かれた曲ばかりをとりあげた美しい作品を送り届けてくれた。
コルネットを吹くラッセ・トゥーンクヴィストを中心に、ギターのマット・ラーション、ベースのハンス・バッケンルースからなるこのトリオは、ドラマーがいないということだけでなく、徹底してアコースティックな響きの美しさを追い求めたジャズを演奏して、静かにではあるが人々の心をとらえ続けてきた。
そんなトリオが、まさに彼らの日常でもあるスウェーデンのメロディーばかりを演奏する。「ヴェリー・スウェーディッシュ」のタイトルどおり、これほどバンドにぴったりはまった企画というのもあまりないといって良いのではないだろうか。
スウェーデンのメロディー、とりわけこの地で歌い継がれてきた民族的なフォーク・メロディーには、独特の哀感やなつかしさが込められていて、人々の胸を打つ。このトリオのリーダーであるトゥーンクヴィストによれば、これらのメロディーはスウェーデン人ならばほとんどの人が小さい頃から耳にしていて、誰でも歌えるようなものばかりなのだという。深い緑に囲まれた森、森林地帯に点在する湖の青さ。たそがれどきの神秘的な光や、訪れる長い冬。
そんな人々の心の中から、ごく自然に育まれてきたのが、これらのメロディーなのだ。1951年にひとりでストックホルムを訪れたテナー・サックス奏者のスタン・ゲッツは、この地で耳にしたあるメロディーに感動をおぼえ、当時からスウェーデンで注目を集めていたピアニストのベント・ハルベルクを従えてスタジオに入り、その曲<アク・ヴァルムランド・ドゥ・ショーナ>をレコーディングした。
スウェーデン語で"美しい楽園"と訳されるこの曲に、ゲッツは"ディア・オールド・ストックホルム"というタイトルをつけたのだったが、スウェーデンのメトロノーム・レーベルからリリースされたこの演奏は、まだ24才だった若きスタン・ゲッツのクールなテナー・スタイルの魅力が最高に発揮された名演として、アメリカはもとより広く世界に知れわたるようになった。
このことがきっかけになってマイルス・デヴィスやジョン・ルイス、バド・パウェルなどもレコーディングをおこない、このメロディーは今日ジャズの世界でももっともポピュラーな一曲になっている。「ヴェリー・スウェーディッシュ」のトップでこの曲が演奏されているのは、ある意味では当然のことでもあるのだろう。
スタン・ゲッツが名演をのこしてから10数年を経た1964年の春、自分のカルテットのメンバーとともにスウェーデンのあちこちで演奏をおこなって歩いたトランペッターのアート・ファーマー(当時はフリューゲル・ホーンだけを吹いていた)は、やはりこの地に古くから伝わるスウェーデン民謡に強い共感をおぼえて、そのメロディーの数々をノートに書きためていった。そしてアメリカへ戻る前にストックホルムのスタジオで、それらの曲をレコーディング。
当時ファーマーが専属契約を結んでいたアトランティック・レーベルから発売したのである。
「トゥ・スウェーデン・ウィズ・ラブ」のタイトルで世に出たそれらの演奏も、ファーマーのしっとりしたプレイが胸にしみわたる好アルバムだったが、その中の<ヴァ・ダ・デュ>(英語では「ウォズ・イット・ユー」と訳される)と<クリスタレン・デン・フィナ>(「ザ・ファイン・クリスタル」)の2曲が、このアルバムでも演奏されている。
なかでもファーマーがノン・ビート風に吹いていた<クリスタレン・・・>が、ここでは幻想的なスロー・ワルツで演じられていて、メロディーがもっている素朴な味わいがいっそう良く出たものになっているところに注目したい。
このアルバムには、そういった昔からの曲だけでなく、現代のスウェーデンの音楽界で活躍をおこなっているミュージシャン、ソング・ライターたちの作品AGHKNなども含まれている。
これらの作品が、古くからの歴史をもったナンバーと何の違和感もなく並んでいるのも面白いところ。
同じことはバンドのリーダーであるトゥーンクヴィストによって書かれたELについても言える。
同国の名バリトン奏者ラース・ガリンが54年に書いた<ダニーズ・ドリーム>は、もっとも古いジャズ雑誌といわれる"オルケスレル・ジャーナレン"のゴールデン・ディスクに輝いたナンバーで、これも地元のジャズ・ファンならば知らない人がない名曲。
また<ソーダーマルム>を書いたソワ・スワネルドは、かつてマイルスと一緒にヨーロッパにやってきたテナーのジェームス・ムーディとも共演したというキャリアをもっているベテラン・ピアニスト。
スウェーデンのジャズ界を彩ってきた、そういったさまざまな歴史の断片が、ここでのスウィート・ジャズ・トリオの演奏にも絶妙な影を落としている。
彼らが生み出してゆく音楽はスウェーデンの音楽そのもののように、どこか芯があり、しかも限りなく優しい。
何よりもジャズを愛し、自国のメロディーを愛しているトリオならではの、心のこもった美しい演奏ばかりが、ここに収められている。
岡崎 正通
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